ネイティブの叡智から見る “子育て” とは?〜亭田歩さんのお話会から

旅が好きで、特にプリミティブなお祭りが好きで、これまでチベットやニューメキシコ、グアテマラなど、いわゆる「秘境」と呼ばれるような場所を旅してきた。

チベットのお祭りの喧騒の中にいたとき、まったく違う土地なのに、不思議とグアテマラの記憶が蘇ってきたのは、なにかに祈る人々と、延々と焚かれる香の香りからからだったのか、どこかから響いてくる音楽みたいなものからだったのか。

旅人のわたしには、そこになにがあるのか完全には理解できない。それでも惹かれるものがあって、漠然と「祈り」の風景を求めて旅してきた。チアパスの教会のおどろおどろしい供物、グアテマラの不思議なパレード、チベットの大タンカ、ニューメキシコのプエブロでの撮影禁止の儀式、バリ島の日常の中にある祝祭と葬列・・・

わけもなく惹かれる、祈りの風景。
それはもう、わたしたちの日常に無くなってしまったものだから、だから惹きつけられるのだろうか。

先日、世界の12の先住民族を訪ね、彼らに先祖代々から伝わる叡智を取材し続けているドキュメンタリー映像作家の亭田歩(ていだあゆむ)さんのお話会とファイアーセレモニーに参加する機会を得た。

亭田さんのプロフィール!これにわたしが惹かれないわけがないでしょー!

【亭田 歩(ていだ あゆむ)】
ドキュメンタリー映像作家。
現在、世界の12の先住民族を訪ね、彼らに先祖代々から伝わる叡智を紡ぐ旅を続けている。
これまでに、オーストラリアのアボリジナル、アイルランドのケルト民族、アラスカのクリンキット族、ネイティブ・インディアンのホピ族、台湾の原住民族、ネイティブ・ハワイアン、日本のアイヌ民族、グアテマラ・メキシコユカタン半島のマヤ、アフリカ・ケニアのマサイ族、フィンランド・ノルウェーのサーミ、中国・ネパール・インドのチベット民族を旅して来た。
そして、最終章は、2019年春から「縄文」をテーマに、日本国内にカメラを向ける。
10年をかけた旅で、世界に伝えるドキュメンタリー映画「響き ~RHYTHM of DNA~」を2020年公開に向けて制作中。
http://www.hibiki12tribes.com/

会場は藤野の「牧郷ラボ」(旧・小学校)の中にある、遊びと暮らしの学校「まちのこ」。星野かーびー&えこちゃん夫妻の コドモワカモノまちing が運営しているおもしろい場所!
何度か訪れているメキシコ・チアパス州 サンファンチャムラの教会。初めて訪れた大学生の頃、ドッカーンと大きな衝撃を受けた

旅をはじめて8年くらい経ったところで気づいた「なにもない」

畳の上に車座になってお話会がはじまって、まずはこどもたち向けのお話タイム!の予定だったけれど、こどもたちは一向に動き回ることをやめず・・・でもここからもう学びははじまっていた。こどもなんて、この姿が本当。そのままでいいよと亭田さんは言う。

ネイティブたちがどんな子育てをしているか気になるでしょ?そこ聞きたいでしょ?・・・なにもしないんだよ。ただこうして、輪になって座る。そこにこどもたちがただ "いる"。それだけ。こどもはその大人の姿から学ぶんだよ。

亭田さんが訪ね歩いてきたネイティブのコミュニティには、必ずこうして輪になって座って話す「ギャザリング」の機会があったそうだ。そのギャザリングの場でなにが話されているか・・・それは話すまでもないほど他愛もないことで、「教え」や「予言」なんてそこにはなかった。

わたしたちは「ネイティブ○○」とか「○○先住民」と言われると、勝手にそこにドラマを描いてしまう。でも、何千年という年月を生き抜いて来ている彼らの伝えてきたことは超絶にシンプルなのだ。基本的には口伝で伝えられるわけだから、シンプルじゃなければ伝えられない、とも言える。

さまざまなネイティブたちを訪ね歩く旅を進めた亭田さん。行けども行けども、そこにきっとあるであろうと思い描いていたたいそうな教えなんて見つからず、ギャザリングの輪の中には「なにもなかった」。
そしてただただ「空(くう)」があったのだ。

長老たちが輪の中で語っていたこと

ギャザリングで人が集まって、輪ができる。その輪の中では誰もが自分のままでいられ、思いっきり泣いたり、怒ったり、叫んだり、抱き合ったり・・・なにをしてもいい、安心・安全がある。

長老たちがその場で何を語っているか。それもこの一言だけ。「Don't worry, don't worry...」

安心・安全な場を保証すること。それが長老の大事な、かつ唯一のお役目なのだ。
そこにはいい/悪いもない。ノージャッジメント。ジャッジのない、安心な場。
そんな長老の横で屈強な男たちがおいおいと泣く姿や、しょ〜もない懺悔の叫びにもたくさん出遭ったそうだ。

アラスカのクリンキット族のギャザリングでは、寒さのため火が高くまで昇らないのでみんな肘をついて寝転がった状態で・・・一斉にぐーぐー寝はじめて、しばらくして目覚めた長老が「今日はいいギャザリングだった!」って!

その安心な場こそが、現代に足りていないもの

翻ってわたしたちの日常。そんな機会ってあるだろうか?

自分を飾らず、強く見せず、弱さも悲しさもさらけ出せるような機会。特に大人の男の人がそんなふうにできる機会なんて、皆無ではないだろうか。自分はすごいんだ!強いんだ!と自信満々に見せ、失敗が許されない社会。それこそが、現代人が抱えるこころの問題や生きづらさにつながっているのではないだろうか。

そんな安心で守られた場こそが、現代に足りていないもの。ネイティブからのアドバイスだ。
子育てについても然り。亭田さんは続ける・・・

一番の教育はね、大人が楽しむこと。自分自身の人生を楽しむことだよ。最高に楽しそうな大人を見て、こどもは育つ。

「奇跡」ってなんだろう?

亭田さんはネイティブたちと対話する中で「なにもない」と悟った。けれどもそこにはたくさんの「奇跡」が起こり、さまざまな体験をした。安心の中で、今ここにしっかりと生きる。すると、今まで聞こえなかった鳥の声、自然からのコンタクト、太陽や月からの合図に気づくことが増えていった。

さっきからね、鳥が僕に合図を送っているんです。話はこれくらいにして、早くファイヤーセレモニーをしたほうがいい。きっとこの後また雨が降るんです。急ぎましょう!

そもそもこの日はグズグズの梅雨空。雨が止んだと思ったらまたざーーーっと降って、外で遊んでいた子どもたちは中に避難、その繰り返しだった。しかし亭田さんのお話会がはじまると雨が止み、スタンバイ状態にでもなったようだった。この亭田さんの合図で、30人ほどの参加者全員で外に出てファイヤーセレモニーの準備をはじめた。

世界中にあるイニシエーションの儀式の数々。自分のからだをもって体験したことはなかったので、この日ははるばる藤野まで、友人えこちゃんの誘いに乗ってやってきたのだった。準備をしながら、亭田さんはどんどん本番モードに入っていく。亭田さんのファイヤーセレモニーは、今まで彼が旅の中で出逢ってきた数々の儀式からの叡智と、ご自身の内側への旅からの叡智がミックスされた、オリジナルのものだった。

土の上に円形の文様を描く。火・水・大地・風。鳥よ、風よ、と丁寧に呼びかけていく。
風が止まってるね。葉っぱ一枚動いてないでしょう?さあ、スタンバイOK。火をつけよう。
左回りで回っていく。うねりをつくりだす。エゴに悩む自分を燃やすんだ。

舞うひと、歌うひと、楽器を奏でるひと、すべてはその場に揃っていて、そこにいるひとたちだけの、そのときだけの、オリジナルなファイアーセレモニー。みんなで火に近づき、その炎の熱さを直に感じる。もっと!もっと!

ほら、太陽が出てきた。奇跡が起きたね!

奇跡とは、なんだろう。
ある事象を奇跡と受け取れる、そのこころとからだの状態、研ぎ澄まされた感覚こそが奇跡を呼ぶ。このファイアーセレモニーを通じてわたしが体感したことだ。

人の輪の中にある「空(くう)」。
ここになにかがぎゅうっと詰まりすぎていたら、奇跡の入り込む余地もない。
ギチギチのスケジュール、てんこ盛りのタスク、それも楽しいかもしれないけれど、わたしはそれはもういいや。「空(くう)」があるから思いもよらないなにかがどんどん舞い込んでくる。その「自由」をわたしは心から愛している。

みんなでヘトヘトになって最後にまた輪になって、一言ずつ感想を言っていった。その時も亭田さんの提案で、コメントの最後には拍手などはせず、ネイティブハワイアンのする膨らんだ両手を2回パンパン→普通に1回パンを3セット。ノージャッジメント。もう夜も遅くなっていたのであっさり解散となったが、それぞれこの体験を大切に抱きしめて、帰路についていった。

なにも特別なものではない。こんな機会が、安心な人の輪が、日常にある世の中を取り戻していきたい。

・・・

翌日、亭田さんのfacebookに、この日のファイヤーセレモニーのことが記されていた。
一部引用させていただきます。

自身の心を、完全なる信頼をもって「相手(生きとし生けるものすべて)」に写し出した時、
世界とシンクロを始める。
そして、「時」もがシンクロするのを「シンクロニシティ」と呼ぶ。
響きが起こす奇跡を解明すると、このようなロジックを持つと言える。

僕は風にもなる。太陽の心も聞こえてくる。
香りは、過去なのか、未来なのか、どの時代から来るのかを、嗅ぐことが出来る。
今では鷹を呼び、鳥たちも僕の心に反応する。

人間も自然の一部である。
僕はすべてとシンクロし始めた。
これは、不思議でも、特別な能力でもない。

僕は、すべてを信じて疑わない心となった。
その瞬間瞬間に必要なすべてが、そこにある。
そして、完全なる信頼。

ファイヤーセレモニーでは、炎も風も太陽も鳥も、僕とひとつになる。

亭田さんは10年にも及ぶ旅の記録をドキュメンタリーとしてまとめ、2020年の発表を目指しています。資金調達のため各地でお話会などに飛び回っていらっしゃるので、どこかでぜひ、実際にお逢いして話を聞いてもらえたら!

映画の完成も楽しみです。
http://www.hibiki12tribes.com/

●ファイヤーセレモニーの写真はえこちゃん撮影のものを使わせていただきました。えこちゃん、ありがとう!

“ネイティブの叡智から見る “子育て” とは?〜亭田歩さんのお話会から” への 2 件のフィードバック

  1. ありがとうございます。
    亭田さんの事を知ったのは、夢を叶える学校の武田葉子さんのお話の中で知りました。
    名前が出た瞬間、武田さんの動画を止めて検索しました。
    そしてこのブログに繋がりました。
    亭田さんの足跡を知り、もっと知りたいと思いました。子どもたちのこれからのヒントになる!子ども達の未来、今の大人の私たちなら在り方で変わると思ってます。

    ギャザリングのお話聞いて頷けます。
    こういう場所を作っていけたらいいですね。私のやりたい事のヒントいっぱいです。
    ありがとうございます😊

    1. 野村さん、コメントありがとうございます!もう4年も前のできごとなのか、、!と、コメントをいただいたことで新たな気持ちで思い出すことができ、学びがありました。
      このあとパンデミックとなり、世界はまた分断され、戦争も起き、救いがなく落胆ばかりですが…それぞれの場所でそれぞれの暮らしを美しく、諦めずに生きていきたいですね。
      残念ながら亭田さんはこのあとどこにいったのか。。映像は未だ完成せぬままのようです。全編見たいですよねー!

      どこかでお逢いできることを楽しみにしています^^

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